講座&セミナー レポート ・ アピール

「日本の施設改革の火を消さないために」

〜既存施設のユニットケアへの評価・支援についての要望書〜

 
1.はじめに

 私たちは今の施設のあり方を考え直し、変えていくためにユニットケアをつくり、広めてきました。ユニットケアは、既存施設での一人ひとりの現場職員の「これでいいのか」「なんとかしなければ」という素朴な疑問が、具体的な行動につなげることで誕生し、これまで全国の現場に広がってきました。従来の、ままならない施設設備や制度の中でも、創意工夫によってケアを変え、お年寄りの生活を変え、施設全体を変える取り組みがユニットケアであり、それは個々の施設の枠を超えて、複数の施設が互いの取り組みを学び、高め合う動きにまで発展してきました。それらの取り組みは、現場職員が真摯にお年寄りと向き合い、一人ひとりの小さな実践を積み重ねた結果であり、また、立場を超えた多様な方々の支援を受けた結果です。現場を追われた仲間や万葉苑の小寺主任生活相談員、京都大学外山義教授など突然の悲しみをも力にここまできたといってもいいでしょう。
  ユニットケアが全国的な広がりを見せる中で、新型施設(小規模生活単位型特別養護老人ホーム)が制度化されました。しかし、ハード面での基準が整備される一方で、先駆的取り組みの中で実践者が志した、お年寄り一人ひとりの個別性を尊重し、「その人らしい暮らし」を大切にする、ソフト面でのユニットケアはどこまで受け継がれているのでしょうか。そうしたことを考えるため、あえて私たちは新型施設ではなく、ハードが十分に整備されているとは言えない既存施設でのユニットケアにこだわり、挑戦を続けてきました。それは、今なお数多く存在する既存施設で、今後どのような実践が求められるのか、という課題に対する答えを探すためでもあります。
  このような問題意識を持ちながら、支援し続けてきたユニットケアですが、それが今、介護報酬の改定を目前にして、混乱が生じ、これ以上ユニットケアに取り組むことができないのではないか、という不安や失望感が介護現場では巻き起こっています。
  今まで当研究会は一貫して施設の改革を目指し、特に既存施設におけるユニットケアの取り組みを支援してきました。この 6 年現場を回り感じるのは、「既存施設のユニットケアの火を消したなら、日本の施設改革はない!」ということです。
  既存施設におけるユニットケアの意味とその価値、更に今後の方向性も含め報告し、そして、既存施設に一元化され、介護報酬上設定されていない既存施設のユニットケアへの評価・支援をここに切望いたします。

 
2. 既存施設が果たしてきた意義と役割

 既存施設におけるユニットケアはこれまで一定の成果を生み、従来の取り組みに大きな影響を与えてきたと考えています。
  既存施設でのユニットケアの取り組む意義は、

@ケアのあり方を大きく変え、職員の成長を促す
A施設の組織力を高める
B地域での施設協働活動(ネットワーク)を通じて、既存施設の変え支えあい競い合う関係をつくる
C地域における新型施設のユニットケアに影響を与え、ソフト面での質の向上を促す
D逆デイやサテライトケア、ときには住民参画の活動をつくり、広げる

という点に集約されるのではないかと考えます。
  既存施設は数多くの実践を通して、こうした意義を見出し、今度はその意義を踏まえて次の展開に向けた足がかりを生み出す役割があります。ユニットケアは新型施設だけのものではなく、既存施設の取り組みがあってこそ、誕生し、発展するものなのです。

 
3. 既存施設におけるユニットケアの基準案

 既存施設においてユニットケアに取り組んでいる実践者が、介護報酬の大幅な改定という状況下で、実践を続けていくための方法を見出せなくなっています。「現状をなんとか変えたい」という熱意と努力だけでは、克服できない課題を抱えています。
  既存施設でユニットケアに取り組む意義と役割を考え、今後も継続していくために、介護報酬の設定ならびに加算等の支援を以下の条件でご検討いただきたく、ここに提案いたします。
 

   1.生活単位と介護単位の一致(10人前後)

  •  生活単位と介護単位の一致
  •  生活単位はおおむね10人前後

   2.日中介護者3人

 •  日中介護者3人
  •  職員の配置は1つの介護単位につき、最低日中3人が勤務する
  •  夜勤に関しては特に限定はしないが、より良いサポートと、関わりをより必要とされる方
    のため、1生活単位に1人の夜勤が望ましい

   3. 個別ケア(ライフサポート)

  •  ケアプランに基づいて個別ケアを実施する
  •  ケアプランでの個別ケアとは

  • その人が日常生活を送るうえで、できないところ、困難を感じるところを補う
  • その人が従来持つ、他者との関係を維持し、必要に応じて新たな人間関係構築の支援を行うことを意味する

   4.都道府県または市町村、圏域を単位とする施設ネットワークに参加し、質の向上を図る

     •  定期的な実践発表
     •  相互評価と公表

 何よりも利用者の意向にそった、今できるあらゆるところからの具体的な改革を進める必要が、介護保険施行から 6 年目を迎え、とみに高まっていると感じます。
  当研究会も、実践づくり、質の向上の支援、人づくり、仲間づくりに追われ、大切な既存施設の評価に関しては、前回の改定に際して意見書を上梓して以降は、十分な検討を行えないままにきました。しかし、既存施設におけるユニットケアの取り組みは、これからの施設改革において、重要な位置を占めていると感じます。
  施設はそのあり方の根本からの見直しとともに、サービス提供の具体化を迫られています。それは、建物のかたちを変えることからではなく、ケアのあり方など、今すぐできることでの対応であると考え、以上のような条件を基にした支援を提案いたします。

 
4. おわりに
 介護報酬の改定を受け、ユニットケアの実践現場では職員配置を充実させる代わりに、正規職員を削り臨時職員を増やすといった、質の低下につながりかねない経営努力が当然のこととして受け止められている様子が伺えます。
「今、老人施設に入っているお年よりは幸せでしょうか」
 私たちがこだわりたいのはこの一点です。
  介護報酬を有効活用し、「質」に結びつく指導は、どこでなされるのでしょうか。
  この一度ならず二度にわたる介護報酬の引き下げの議論に、今老人施設にかかわるものとして、責任を感じてなりません。
  既存施設のユニットケアの火を消さないでください。
  日本の施設改革の火を消さないでください。
  そのための既存施設のユニットケアへの評価・支援をお願いいたします。
 
2005年11月15日

特養・老健・医療施設ユニットケア研究会
代 表  武 田 和 典



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