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【施設福祉の新しい流れ】

 わが国の政策が永く施設重視であった中で、小さくも着実な流れとして、障害当事者による地域での自立生活を求める運動が広がってきました。また、グループホーム、生活ホームなど、小さな生活単位で、地域社会の一員として自分らしい暮らしを作る動きも広がり、制度的な支援も徐々に整備されてきました。こうした、障害者の地域生活を求める動きが高齢者福祉の現場にも影響を与え、家族に頼ることなく地域生活を継続する宅老所、グループホーム、グループハウスやグループリビングなどの仕組みが広がりつつあります。特養などの大規模施設と異なり、それぞれの入居者がその人らしい個性的な井蛙kつを送ることができ、結果として、集団処遇の施設と比べて、痴呆高齢者の行動障害(いわゆる問題行動)が緩和されるなど、めざましい成果をあげています。
 
  これらの動きは、ノーマライゼーション思想の世界的な広がりの脈絡に位置付けられます。障害などにより支援を必要とする人たちを「健常者」と分けて、地域社会から隔絶してきた歴史の反省のうえに、全ての人々がその人が望む自分らしい生活を送る権利があるという理念に基づき、施設福祉のあり方が根底から問い直されているのです。

 大規模で、地域から離れた施設に収容するというあり方から、小規模で、できるだけ街中の施設に、さらには、できる限り住み慣れた家、地域で、友人、知人に囲まれた「普通の」暮らしを目指していくことが基本的な流れです。

 こうした流れに触発されたのが、高齢者施設のユニット化です。グループホームのような小規模で「普通」に近い生活を、施設において実践することができないかという問題意識が、施設の個室化とユニットケアにつながりました。

 50人定員の特養の場合、日勤者は7名程度。その職員が50人の入居者の食事・排泄等の介護をしながら、話し相手となって、一人ひとりにかかわっていきます。たとえ個別ケアを理念に掲げても、現実は、職員にとって目の前の入居者は1/50としか見えなかったでしょう。


 これに対して、ユニット型ケアでは一人の職員が10人程度の入居者と関わることになります。これは 1/50 から 1/10 への変化ではなく、1対1のケアに向かうことです。職員と入居者が1対1に向き合い、入居者の気持ちに触れ、その願いに気づき、一人ひとりの個性や人間としての尊厳を大事にするケアを行うことによって、信頼関係を築いていくことができます。さらに同居者同士が人間関係を築き、新しい家庭のようなグループとして、家庭で暮らす感覚を持つことができます。


 暮らしの単位を小さくして、一人一人の顔が見える暮らし、私はこうしたいという主張のできる暮らし、わがままも通る暮らしが目指されます。個室を基本とし、自分だけの空間を持ち、暮らしの単位ごとに日常生活が行われ、大食堂も大風呂も無く、最小限の約束事で済む暮らしを目指すのがユニットケアです。

 厚生労働省は、今年度から全室個室、ユニット型の「新型特養」を制度化しました。千葉県は、今後の特養整備にあたっては、原則として全室個室・ユニットケアによる整備を推進していく方針を打ち出しました。合わせて、「ユニットケア施設職員研修」「特養・老健ユニットケア推進事業」を県単位事業として行い、既存施設のユニット化を含めた施設を展開しようとしています。これらの施策は、施設を「生活の場へ」改革していくものであり、積極的に評価したいと思います。その意味では、これらの施策は、高齢者施設に限らず、障害者施設においても積極的に追求されなければならないでしょう。

 さらに、施設福祉から地域生活支援へ重心を移していく方向を目指していきたいものです。施設の個室化、ユニット化によって、個々人のその人らしい生活が営まれ始めたとき、(旧来の入所施設のイメージが払拭されるとともに)新たな疑問が生じます。大勢の障害者、高齢者が一箇所で暮らす必要が何処にあるのだろうか。この小集団をもって、地域社会の中に生活を確立することはできないのだろうか。条件に見合う人のみが地域社会に暮らすのではなく、誰でもがどのような状態であれ、望むならば地域社会の中に自分らしい暮らしを作ることができないのだろうかという問いです。

 しかし、施設の障害者や高齢者の多くは、本人の意思でなく、家族の意向に基づいて入所しているものと思われます。障害を抱えた子を持つ親が「親亡きあと」を心配し、また、親や配偶者の長期介護の末に止むを得ず施設入所を選ばざるを得ないといった理由で、現在も多くの施設待機者が存在しています。その状況をそのままにして「施設から地域へ」重点を移すことは、何ら問題の解決になりません。「地域へ帰る」ことは、家族や友人のもとに帰ることであっても、「家族介護」に戻ることであってはならないのです。施設に蓄積された豊富な介護資源を地域に移行することで、家族の介護負担に拠らない、自立した地域生活が可能な地域ケアシステムを構築することが求められます。

 精神障害者の問題について特記したいと思います。
 高齢社会の進展は、高齢者のみならず障害者のノーマライゼーションについても、人々の理解と共感をひろげつつありますが、精神障害者は、今も、苛烈な差別と偏見の只中にいます。精神障害者にとっての長期収容施設は精神病院です。人によっては青年期に入所して以来何十年もの入院を余儀なくされています。地域に理解と受け皿があれば十分に地域社会での生活が可能な人も大勢いますが、グループホームなどの暮らしの場、作業所などの就労の場を作ることが住民の反対によってままならないのが現状なのです。

 「病院から施設へ」さらには「施設から地域へ」の流れを促進するためには、あらゆる障害への差別を許さないノーマライゼーションの思想をひろげ、私たちの心のバリアフリー化を進めなければなりません。


【当面の課題】
 このような問題意識を基本としながら、千葉県では、現在の入所施設の個室化、ユニット化を可能な限り進めていくことから出発したいと思います。

 生活単位を小規模化し、入居者それぞれの個別的な生活を支えるためには、介護のあり方を「流れ作業的なケア」から「生活を共にするケア」へ転換する事が最大の課題であり、併せて現在の職員配置基準を見直し、マンパワーを確保することを国に要請していくことも必要です。

 ユニットケアを実践している施設では、今までのケアの見直しが進んでいます。多くの既存施設は、業務マニュアルに基づいて、食事、排泄、入浴、レクリエーションの介助を行い、その合間にケアプラン作成、記録の整理に追われる中、流れ作業的に業務が行われます。これに対してユニットケアは、個々の入居者と向き合い、介護の担い手と受け手の関係ではなく、人と人の関係づくりが問われます。その意味で、介護者には、入居者が本当に必要としている要求を理解し、自らの判断で柔軟に対応することが求められ、ケアの専門性だけでなく人間性が問われることになります。しかし、介護の原点はもともと人間関係や信頼関係づくりであり、その意味では、ユニットケアは、介護の原点を見つめなおしていく過程といえましょう。

 このため、施設の新設や改修の際には、経営や運営の責任者だけでなく、設計者や介護スタッフが一緒になって、ユニットケアのあり方について理解を深め、議論を重ねていくことが必要です。また、入居者の生活の質を高めるよう、介護スタッフの研修を充実し、実践研究を蓄積することも必要です。

 今後、既存施設においても、ユニットケア導入を積極的に図り、「管理」という発想を転換し、入居者個々としっかり向き合い、その人らしい生活の場としての新たな施設介護の方法論を確立していく必要があります。

 また、特養や老健で広がりつつある個室、ユニット化の流れを、千葉県では全障害領域の入所施設の課題として、積極的に探求していくことが求められます。

 さらに、個室、ユニット化の推進は、「施設福祉から地域生活支援へ」の流れの中での取り組みであり、個室、ユニット化の先に、高齢者も障害者もすべての人が、住み慣れた家庭や地域で、その人らしく生き生きと暮らし続けることができる社会をしっかりと展望していきたいと考えます。


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