一言に「在宅・地域福祉が大切になる」といっても、それは旧来の家族・親族に全面的に頼った時代に戻ればよいというのではありません。ノーマライゼーションやインクルージョン理念の一定程度の浸透、ユニバーサルデザインの開発、ボランティア団体やNPOの立ちあげなど、福祉に関する諸条件の整備・成立がその背景にあります。総じて、それらは「要ケア状態でもなお通常の生活を営むことこそが人間として大切な価値である」とする理念に立つ条件整備といえます。こうした条件整備の視点に立てば、「施設福祉」と「在宅・地域福祉」は対立ではなく、むしろ相互に連携・協力・補完し合う関係に立つといえるのではないでしょうか。
人が生まれ、育ち、成長・発達する歩み あらためて、人が生まれてから送る生涯について振り返ってみたいと思います。生まれや育ちは、一般に本人の意思や能力が及び難いところです。「子ども・家庭福祉」の必要な理由がここにありましょう。とは言え、そのように環境に大きく左右されながら出来上がった自我を、私たちはある年齢から否応無く自らに引き受けなければならない生き物でもあります。病気や障害などの心身の状態、性やジェンダー、対人関係、社会的地位(立場)や役割など、いつのまにか引き受けた自我と、時には葛藤し、時には折り合いをつけ、時間の経過の中で人それぞれに人生のイベントを作り出します。
こうした歩みの全容を「生涯発達」と言うなら、人は、まず自分の福祉(Well-being)を求めてやまない生き物だと言えます。同時に、子や孫の福祉を求め、さらに、ともに今を生きる同胞の福祉を求め得る生き物だとも言えます。そこに、すべての人々の「生涯発達福祉」を願い、実践する理念的基盤があるように思われます。
生涯発達と生涯福祉 こうして見ると、人は相互に協力・援助し合って、可能な限りよりよい生涯発達を遂げようと務め得る生き物であり、相互に「生涯発達福祉」を実現しようと務め得る生き物でもあります。
例えば障害や要介護状態の高齢期、失業や低所得などについて、それらの序津愛を本人に固有の状態として放置するのでなく、また、気の毒だから少しだけ負担を軽くするというのでもなく、人間・人格・人生など、対等の価値を持って生きるパートナーであるという自覚・認識に立つとき、「生涯発達福祉」を人間社会の共通・協同目標として掲げることができるに違いありません。そこでは、理不尽な我慢や、不条理な差別や偏見がすべての人々において厳しく問いただされます。福祉の理論や実践も、人間として理不尽さや不条理を残していないかどうかの視点から問いただされると思われます。そこでは、研究や実践は、「これで完結」ではなく、「当面の完結、さらなる改善」として位置付けられましょう。
「生涯発達福祉」の視点から見たケアのあり方 さて、以上のような視点から社会福祉援助(ケア)のあり方を見つめ直しますと、あらためて改善すべき余地が浮かんで参ります。真に利用者の立場に立ち、利用者の意向を汲み尽くしてケアプランを立てているか、真に利用者の「生涯発達福祉」にとって可能な限りの最善にかなっているか、利用者の願いや苦情を真に親身になって聴きとどけているか、など。
例えば、施設福祉でのケアの場合、利用者が長年蓄積してきた生活習慣を可能な範囲で受容しているかどうか、集団的・団体的活動場面には多くの価値がありますが、それを機械的にこなしているだけという場合はないか、利用者が時には一人で静かに過ごしたいと思うとき、十分な対応がとれているかどうか、など、立ち止まって考えて見ると、時に、疑うことも無く習慣化してしまっているケア活動パターンのあることに気づきます。それらを総合的に振り返ったとき、基本的ケアのあり方として、在宅・地域福祉とも連動することを視野に入れた「ユニットケア」に付き当たります。
ユニットケアの探求と今後の課題 ユニットケアの発想と方法の基礎は宅老所やグループホーム等の家庭的雰囲気の漂う施設が利用者の抱えていた問題点を沢山改善することにあります。個室での個別生活を用意し、生活単位(ユニット)ごとの生活活動を重視するところにユニットケアの特徴があります。
この特徴は、障害者や要介護者を特別視せず、障害や要介護状態を本人の現在の常態として受け止め、そうした常態に立ってノーマルな生活ができるようにするプログラムなどを用意することとしてケアを展開することになります。
ユニットケアの発想に立つ社会福祉援助が必要であり、実践課題としてユニットケアを取り入れようとする姿勢は、さきの「豊の国ゴールドプラン21(第2期)」や「大分県障害者基本計画(第3期)」の中にも表れています。例えば、今後の介護サービス整備の方向に関する記述や在宅サービスの整備・介護保険施設の整備に関する記述において、ユニットケアの発想があります。また、「障害者基本計画」については「地域生活支援」の項目においてユニットケアの発想がかなり明確に記されています。
県行政の施策の中にユニットケアの発想がいくぶんでも取り入れられてきた今日、これを更に推し進めていく1つのカギは、「福祉のまち(地域)づくり」をどう具体化するかに掛かっていると言えます。老若男女・障害者・病者・外国籍の人など、様々な個性・社会性・主体性を持つ人々が、安全・安心・平和のうちに福祉(Well-being)状態で共生し合える地域社会・全体社会を構築する課題が問われるわけです。この点から大分県域を再び眺めわたした時、そこに立ち現れる課題と展望を列記すれば、次のようになりましょう。
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利用者本人を中心に、家族や友人、近隣の知・友人、保健・医療・福祉・教育・行政・ボランティアやNPOなどのあらゆる社会的資源をユニットケアに活かす方法を探る必要があります。 |
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それには、現に保健・医療・福祉・教育・行政などに関わっている「現役」スタッフが研究・研修を実践的立場から積み上げ、自覚して意識改革することが大切です。 |
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地域に暮らす多くの人々に共感的に理解を求め、協力する立場にたっていただくには、一人ひとりの利用者の立場に立つユニットケアの実践事例を大切にし、地域のいろいろな方々との交流の機会にさりげなく実践例を示していくことが必要です。 |
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また、行政部局はもちろん、企業、非営利団体や職能組織、町内会や集落単位の自治会、労働組合などを含む広範な団体・組織などに機会があるたびに「福祉社会」の発想から理解と協力を求めることが大切です。 |
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