高知県内の特養50施設と老健31施設を対象に高知県が2002年10月に実施したユニットケアの意向調査によると、「導入済み」が5施設、「導入予定」12施設、「検討中」24施設、「予定なし」40施設となっていました。ユニットケアへの関心が、徐々に広まってきたといえるでしょう。
また、2002年度と2003年度の2ヵ年にわたって、高知県では県単独事業として「高知県高齢者福祉サービス向上支援事業」補助金を高知県社会福祉協議会に支出しています。この事業は、施設内職員研修用の業務点検表作成(施設内研修用ツール作成)を目的としていますが、そのプロセスで「施設福祉サービスの利用者の満足・不満足の実態把握」を実施することになりました。つまり、福祉施設での利用者の日常生活における介助・食事・入浴サービス等の満足・不満足を把握しようとするものです。県内特養現場職員10名で研究スタッフが構成されており、2002年度には研究スタッフの施設で実験的に利用者アンケートを実施しました。その結果、満足の声がある一方、多くの不満の声があがってきました。2003年度は、それらのデータを集計し、報告書にまとめ、研究の周知と報告書の活用について研修会を開催する予定です。現在、実施中の事業で、まだ結果は出ていませんが、高齢者の声を聞くことに終わらず、その解決に向かって、さらなる生活の質の向上をめざした対策をしていかねばなりません。
さらに、高知県では、2003年度事業として「高知県ユニットケア研修事業」も実施しています。県内におけるユニットケアの促進を目的に、地域のリーダーとしての役割を担うモデル施設を育成するために、ユニットケアの理念と手法を正しく理解習得するための研修です。講義と現場実習(特養風の村、きのこ老健)による研修となっています。現在、特養11施設と老健1施設が研修中です。
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次に、在宅ケアと地域での取り組みについて紹介します。高知県では、2000年4月の介護保険導入以後、市町村や社会福祉法人のほか、医療法人やJA、民間企業、NPO等多様な事業者が介護サービス事業者として参入し、民間活力の活用が進んでいます。しかしながら、中山間地域では、新たな事業者の参入が難しく、引き続き、市町村や社会福祉協議会等が地域の介護を支えていく必要があると考えられます。
グループホームについては、高知市、南国市、中村市などの市部においては次々と開設されています。一方郡部では、沿岸部で民間事業者が参入しているものの、中山間地域ではニーズに対応しきれていません。高知県ではグループホームの整備は、各市町村に少なくとも1ヶ所の整備をはかることを基本としながら、地域の実情や参酌標準等を踏まえた整備について支援を行っているところです。
また、「介護予防拠点事業」を活用して、小学校や公民館などのハードを改修し、生きがいデイサービスや健康づくりなどのソフト事業を充実させている市町村が多くあります。例えば高知市では小学校区に1つの宅老所開設を目標に「なごやか宅老所事業」を展開してきた結果、現在19ヶ所の事業所がありますし、高知県では県単独事業として1994年から2002年まで「余裕教室等有効活用促進事業」を実施し、福祉サービスの充実のための学校や公民館の改修を補助してきました。さらに、過疎化がすすむ町村では、今後、中山間地域の廃校を高齢者のための共同生活施設に活用できないか調査が始まっています。
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以上、高知県の現状をみてきましたが、高知県の事例から次の3つの問題点と課題がみえてきました。
(1)職員研修による意識改革を
ユニットケアは、宅老所・グループホームが痴呆性高齢者ケアに効果を発揮している状況をみた施設職員等により、施設での個別ケアへの試みとして産み出されたものです。
高知県の場合、施設が古くてハード整備が難しいことが多々ありますが、可能な限りのハード整備と、「職員の意識」というソフト面の改革によって、ユニットケアを自分の施設に生かしていくことができると思います。ユニットケアは、ハードウエアとソフトウエアが相まって効果を発揮するものです。ユニットケアの理念を学び、職員の創意工夫で、自分たちなりのより良い施設を模索していきたいものです。目まぐるしく変化する福祉の流れの中で、確かに、一般論的にいえば自治体立や組合立の施設では、法人立の施設に比べて、目標を持って変革していくことは難しい体制といえます。変革には時間がかかるかもしれません。
現在、高知県高齢者福祉課の取り組みによって、徐々にユニットケアへの理解が習得されてくるようになっていますが、今後さらに職員の研修を強化していく必要があるでしょう。職員の相互派遣なども意識改革の有効な手段となるのではないでしょうか。
また、高知県の地域特性を考えた際、特養・老健だけではなく、医療施設職員との合同の職員研修も実施していかねばならないと思います。
(2)施設プログラムの中に地域との連携を
介護保険導入前は、デイサービスは施設内の実施に限られていましたが、今日、地域でのケアが可能になっています。このことからも、ますます、施設と地域との連携が進められていくでしょう。例えば、「逆デイ」などの取り組みがあげられますが、施設に入居している痴呆性高齢者が、日中は地域の民家や宅老所で過ごし、笑顔が戻ってきました。今や、ケアプログラムの多様化が可能な時代になっています。
今後は、施設内のユニットケアを検討していくと同時に、特養のケアプログラムの中に逆デイを取り入れるなど、地域との連携を強化することによって多様な取り組みをしていく必要があります。
厚生労働省老健局長の私的研究会の報告書「2015年の高齢者介護」は、次の3点が今後の方針として示されました。1.小規模多機能拠点の整備(宅老所の発展形態)、2.施設機能の地域の展開(逆デイやサテライト化、サテライトの小規模多機能拠点化)、3.既存のグループホームや特定施設に機能を付加(多機能化による対象拡大、弾力化)、です。
また、中山間地域では、公民館や余裕教室の改修、民家の活用などによって、グループホームや宅老所を展開していかねばなりません。今後は、廃校や遊休施設の利用についても積極的に取り組んでいきたいと考えています。
(3)「個人の尊厳」の保持を−全国セミナーを機に高知県の飛躍を−
施設においても、入所者一人一人の個性と生活のリズムを尊重した個別ケアが求められる時代になりました。
社会福祉法第3条では、「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、福祉サービスの利用者が心身ともに健やかに育成され、又は、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなくてはならない」と規定されています。
今一度、社会福祉法の理念に立ち戻り、高齢者や障害者の個人の尊厳について考え、実践する時が来たのではないかと思います。全国の特養や老健で広がりつつあるユニットケアの理念を学び、高知県では高齢者のみならず、障害児(者)や児童などを含めた、全障害領域の入所施設の課題として、積極的に追求していくことが求められます。全国セミナーの開催県として、今後は、全国の施設関係者の方々と学びあいながら、すべての人が、その人らしく生き生きと暮らし続けることのできる地域社会の形成を推進していきたいと考えています。
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