講座&セミナー レポート ・ アピール
第7回ユニットケア全国セミナー実行委員会レポート
地域を耕す 〜ユニットケア実践からコミュニティソーシャルワークへ〜


1.栃木の地域福祉 〜コミュニティケアからのスタート

  今日の社会福祉は単なる 「変化のレベル」 に留まらず急激な 「潮流」 への変化である。その背景は様々であるが、要約すれば (1) 福祉の国民化 (2) 福祉理念の変化 (3) 福祉の地域化 (4) 公私協働・住民参加 (5) 福祉の計画化であろう。そしてこれらの変革の目指すものは、福祉サービス利用者の主体性の尊重と形成を基本とする 「その人らしい暮らし」 の実現と施設・住宅を問わずそれを支える 「コミュニティの形成」 にあると言えよう。
  栃木県における地域福祉の現状は、本年3月 「県地域福祉策定支援計画」 が策定されたばかりであり、市町村地域福祉計画も合併の動きの中で数市町に過ぎず緒についた段階である。

(1) 全国に先駆けたまちづくり、足尾町での取り組み

  県レベルの地域福祉についての取り組みは全国的に早く、1973(昭和43)年足尾町・古河鉱業 「足尾銅山」 の閉山に伴い高齢のため他地域に転出できず、町に残らざるを得ない高齢者の生活・生きがい支援などのために県・町社会福祉協議会が取り組んだ 「保健福祉地区組織活動」 の推進とその成果を他市町村に波及させるための 「コミュニティケア」 の取り組みである。本事業を支援するため1975(同50)年に 「栃木県コミュニティケアモデル事業推進要綱」 が制定され予算措置がなされた (本予算措置は栃木県における地域福祉推進を目的とした県単独の最初の予算といえる)。
  翌年の1976(同51)年度を初年度とする 「県長期総合計画」 の社会福祉施策については 「これからの社会福祉の原点は地域福祉」 と位置づけ、福祉を支えるコミュニティの形成、福祉教育・福祉を支える人づくり、在宅福祉サービスの充実、施設整備と社会化の促進などが挙げられた。
  全国的にも地域福祉の実態化が十分なされない時期にこのような政策決定がなされ、全国に先駆けてコミュニティケア実践に取り組んだことは評価されよう。
  その後の4市町のモデル地区の取り組みが、障害者作業所、学童保育、給食サービス、ボランティア活動の振興と住民の組織化、市町村社会協議会の法人化促進、民間の地域活動を支える10億円の基金の造成、更に福祉教育推進機関 (社会福祉教育センター) の設置など今日の地と技研の地域福祉を支える基盤整備に影響を与えた。
  高齢者・障害者・児童を見守り支える地域社会づくり、福祉教育、ボランティア活動振興からの住民組織化・活動などが 「地域を耕し」 その結果、施設と在宅サービスの隙間を埋める 「宅老所 〜高齢者デイホーム〜」 の誕生につながったものといえよう。
 

 

(2) ユニットケアへの15年の模索
  認知症高齢者を対象とした 「高齢者デイホーム」が県単事業として制度化されたのは1989(平成元)年で、コミュニティケアモデル事業スタートから約15年を経過し、そして、デイホーム事業から高齢者介護革命と呼ばれる今日の 「ユニットケア」 への模索・試行と具体的な実践まで更に約15年を要している。
  このことは、近年指摘されてきたようにこれまでの我が国の福祉が措置制度の下、法制度、サービスメニュー、運用など規制された枠組みの中で処遇が図られ硬直化し、また在宅・施設福祉従事者が問題を 「気づきつつ」 も十分 「自己変革」 できなかったことも要因のひとつに挙げられるであろう。
  しかし、そのような条件下、未だ地域福祉の推進方法やコミュニティケアの意義も十分理解できない中 「公害の原点、足尾を福祉の原点に」 をスローガンに取り組んだ町づくりが、今日の 「福祉で町づくり」 にもつながっている。また高齢者の地域支援活動から地域福祉問題、取り分け当時の認知症高齢者の介護状況、施設における処遇の疑問などが 「熱い想い」 と重なって、住民組織が運営するデイホーム・宅老所事業の制度化をもたらしたのである。一つの制度が生まれるプロセスは様々であり、利用者のためのものとして定着するにはかなりの時間を要する。潮流に押し流されることなく過去の取り組みや今日の現状を分析・検証し、地域のニーズに即した対応の検討と協働のあり方の研究が今日、栃木では求められていると考える。
  在宅・施設の処遇を問わず今日の福祉理念であるノーマライゼーションの具現化と利用者の尊厳の尊重、主体形成の第一歩と言えるユニットケアの 「その人らしい暮らし」 の実現は、宅老所・デイホームの 「一人ひとりに寄り添うケア」 の実践とそれらを支えるための 「コミュニティソーシャルワーク実践」 が前提条件であると考えられる。
  「その人らしい暮らしの実現」 の場所は在宅・施設を問わないが双方とも 「地域社会」 の中に存在することが常に意識されなければならない。


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