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2.デイホーム・宅老所事業の想いと問いかけ

  栃木県におけるデイホーム事業 (宅老所) 事業は、最初あkら法人格のない民間団体の運営を想定したものではなく、当初は市町村事業と位置づけ社会福祉法人の経営する特養に委託する方法でスタートしたものである。

 
(1) 草創期のデイホーム事業
  当時は特養の設備を促進しつつあったが、今日在宅支援に大きな役割を果たしているデイサービスなどは不十分であった。特養などの施設を 「利用する」 と言う住民の意識と 「施設機能の地域開放」 という経営者の意識の低さも働き、更に住民の特養という施設を利用することへの抵抗感もあって、利用状況は極めて低い状況であった。当時は認知症高齢者の処遇問題が在宅、施設を問わず顕在化し、特養に認知症高齢者のための居室整備補助がなされた時期でもある。
  施設処遇中心、それも寝たきりを主な対象とし認知症の処遇技術も十分普及されていない状況の中で、デイホームの有効性を認識しつつも利用実績の上がらない制度をどう運用するかが行政の大きな課題となった。
 
 

(2) 地域にある当事者組織、民間資源の活用
  事業のあり方検討の過程で生まれたのが 「民間資源の活用」 である。コミュニティケア実践の課程で地域の社会資源を活用し、各種の事業を当事者組織あるいはボランティアに委ねたことにより、弾力的な運営が図られ 「地域密着型」 活動の実績が検討された。その結果、市町村事業の位置づけを変えず運営主体を民間の任意団体に拡大、1989(平成元)年本事業が新しく制度化され、概ね一日5人程度の正に 「小規模ケア」 がスタートした。
  社会福祉事業法は、事業の種類 (第1種・2種) を分類し、経営主体も原則として社会福祉法人に限定していた中で、任意の組織・団体に処遇困難な認知症高齢者の対応は可能か、民間の個人所有の住宅改修費、備品などへの公的助成など多くの問題が生じたが県単独事業として制度化された。
  制度化の背景には強力なマンパワーの存在が大きく影響している。ボランティアとして地域で在宅高齢者の給食サービスや見守り活動を展開していた団体・個人が名乗りを上げ、事業のための組織化が図られた。
 

 

(3) 寄り添うケアの実現
  試行錯誤の中で取り組まれた活動の特徴は、施設勤務経験者や福祉の専門従事者ではなく、主婦を中心とした組織が運営に関わったことであろう。主婦の日常生活の感覚や生活能力、知恵が施設と異なる生活空間と時間、アットホームな雰囲気を醸し出し、更に小規模であるが故に 「一人ひとりに寄り添うケア」 の実践につながったものと考える。
  また、日常生活が地域社会・住民との 「ふれあい」 を強いものとし、住民が気軽に立ち寄り、交流が図られることによって福祉教育やボランティア活動の拠点となったことも大きい。
  まさに 「地域密着型」 である。
  この時期の施設関係者のデイホーム事業に対する関心と評価はどうであったか、地域福祉の推進、施設機能の地域社会への開放が叫ばれつつある中で、施設処遇に本事業の利点を積極的に導入した施設は少なかったのではないか。
  デイホーム事業は、その後全県下に波及し地域の特性を活かした処遇の取り組みがなされ、全国初の小規模ホームの連絡組織である 「栃木県高齢者デイホーム連絡会 (現:栃木県高齢者小規模ケアネットワーク)」 が組織化された。NPO法制定後は大部分がNPO法人の認証を受け、介護保険法下では指定事業者となって、小地域の認知症高齢者を初とする要介護高齢者を多機能で支える拠点として様々な課題を抱えながらも地域ではなくてはならない拠点として独自の機能を果たしている。
  ※定員5人でスタートした小規模ケアホームは、1993(同5)年虚弱の高齢者も対象となり、定員8人となった。デイサービスセンターE型は、1992(同4)年認知症高齢者のための定員8人の事業として国において制度化されている。


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