講座&セミナー レポート ・ アピール
3.施設処遇に求められるもの 〜ユニットケアの理念〜
  今日では忘れ去られていると思えるが、これまで施設関係者は古い言葉で 「過程に勝る施設はない」 しかし 「過程に勝るとも劣らない施設処遇を」 を目標に努力してきた。施設整備はゴールドプラン・新ゴールドプランに基づき計画的に進められ、新設施設はバリアフリー化が進み生活環境も快適さを求めて大きく改善されてきた。広い廊下、国の基準を超えた居住スペース、多目的ホールなど施設のハード面の整備は申し分ないくらいの配慮がなされている。
(1) 施設設備から処遇へ
  しかし、翻ってみるとハード面の整備と並行して処遇面での変化はどうであろうか。生活面での快適さの確保は決して施設設備面だけで計ることはできない。施設が 「生活の場」 であるとするならば、 「生活の匂い」 がなければならないであろう。福祉サービスは 「家庭機能」 を 「補完・代替」 する機能を有する。施設サービスが家庭機能を 「代替」 するものであるならば、その処遇に最大限、家庭・家族の持つ機能を反映させるための創意・工夫がなされなけらばならない。
  もちろん現場での取り組みとして 「家庭に勝る施設処遇」 を目指しているところも多い。しかしほー度面の整備が即 「良い処遇」 を担保しているものと錯覚をしている関係者が多いのではなかろうか。
  施設を訪問し、広い多目的ホールに一人ポツンと座っている入所者を見かけることは少なくない。地域のデイホームは施設・設備面でははるかに大規模施設には劣るが、生活者の視点で捉えればより家庭的な雰囲気を感じ、味合うことができる。
 
(2) 本当の利用者本位とは
  私たちの意識の中には必ずしも急激な変化を望まない保守的な意識が存在する。特に組織内完結型の特性を持つ施設はその傾向が強いと考えられる。企業・組織のマネジメントのあり方の中で 「甲殻動物の進化論」 について論語されることが多い。甲殻動物はこれまで外敵から身を守るためガードを固くしその結果、他の動物に比して甲羅が強固に進化し脱皮が困難になったと言う説である。
  これまでの施設処遇に 「風穴」 を開けたのは 「ショートステイ」 であり 「デイサービス」 であった。これらは施設処遇に対する社会的な要請、すなわち外的な変化が甲殻動物進化論の変革をもたらしたものと言えよう。これからの施設処遇は外的な変化、社会的な要請に対応するだけではなく、自らが 「利用者本位」 の理念に立って処遇の改革に取り組まなければならない時期に至っている。
  そのスタートがユニットケアの理念の導入であろう。
 

4. 今後の展望と課題 〜地域を耕し、支える拠点としての多機能

  福祉サービスは在宅・施設を問わず 1) 利用者を支える  2) 家族を支える  3) 地域を支える  4) 職員を支える  5)高齢社会を支える、という5つの機能を有していると考える。

(1) 地域と協働する福祉
  特に 1) の利用者を支える機能は、地域に支えられ、かつ地域を支える機能と極めて密接な関係にあると言える。施設が取り組みつつある逆デイサービスや地域サテライトの試みは利用者を地域から隔離するのではなく、地域に戻すことであり、限界はありつつも 「その人らしい暮らし」 の担保を指向するものである。そしてその拠点は 「地域密着型」 と呼ばれるように、地域社会との関係なくしてその目的を達成することは困難である。これまで施設は地域に支えられてきた感が強く、むしろ依存していた傾向も否定できない。
  一人ひとりに寄り添うケア、その人らしい生活の実現は正にコミュニティソーシャルワークにつながるものである。このためには地域の社会資源、取り分け住民組織、社会福祉協議会、NPOなどとの 「協働」 が必要となる。施設利用者のみの拠点ではなく、地域の要援護高齢者を包みこむ取り組みが結果として、地域の福祉力のアップにつながる。そしてこの 「協働」 の考え方は、サービス提供者の論理ではなく利用者、対象者のためでなければならない。
 
(2) これからの福祉に必要な地域のネットワーク
  社会福祉改革の潮流は、一事業者や関係者の 「熱い想い」 のみで対応はできない。宅老所からスタートした本県のデイホーム事業も介護保険制度により居宅介護事業として発展し、これまで比較的軌道に乗りつつあったが介護保険の見直しの中で安定した経営が危惧されている。特に財源と人材確保は当面の大きな課題であり、処遇知識・技術、人材の交流も必要となってくる。小規模といえども同じ体制が長期間継続すれば前述の 「甲殻動物の進化論」 の状況に陥らないとは限らないし、事業者の独善的な運営に陥る危険性も想定される。後継者の問題もある。 「熱き想い」 だけで生活を支えることは困難であり、適正な人件費の確保が求められるであろう。
  今後、施設も逆デイサービスや地域サテライトの取り組みを進めていくこととなるが、一法人でこれらの取り組みを完結するのではなく、地域の既存の小規模施設と法人の壁を越えて提携し、双方の長所を生かした利用者本位の拠点運営が可能か否か研究する必要がある。人材・知識技術の交流にもつながるものと考えられる。
  介護保険の規制緩和で多くの事業者が各種のサービスを提供しているが、例えばデイサービス事業のチェーン展開のように地域の 「特色」 が薄まっていることを感じる。チェーン化を否定するものではないが、これまで地域とともに歩んできた小規模・地域密着型の機能と 「連携・協働」 することによって更なる 「多機能化」 を果たすことが可能となると考える。
  ユニットケアへの理解、導入の思いは施設職員に広がりつつあり、本県においても県・県老施協による 「ユニットケア実地研修」 が16〜17年度の2ヵ年で県内すべての特養職員が研修を受講することとなった。大きな前進である。しかし、ユニットケアの取り組みを未だ単にハード面の視点で捉えている職員、関係者も少なくはない。
  また、介護保険下で高齢者のケアを左右するケアマネージャーのケアプラン作成も地域社会資源の活用を視野においてなされているとは言い難い状況にある。更に地域社会の組織化、福祉組織化を機能とする社会福祉協議会の取り組みも必ずしも進んではいない。
 
(3) 協働の意識構築のために
  社会福祉協議会が指定事業として、介護保険事業に参入することは地域福祉型福祉サービスを目指すうえで有効であるが、他の民間事業者と同様なサービス給付に終始するならばその意義は半減する。自ら小規模・多機能・地域密着型の事業を運営するか否かはいずれにしても、介護保険事業でキャッチした様々なニーズにどう対応するか、できるかが問われるところである。
  小規模・多機能・地域密着型、ユニットケアの取り組みが万能ではない。これらを軸として一人ひとりに寄り添うケア、その人らしい暮らしを実現するための地域福祉のシステムが構築されなければならない。正に関係機関、組織の 「協働」 が必要となる。そしてこの協働は単なる連絡・調整のみのものではなく、そこから新しい何かが 「創造」 されなければならない。
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